2013年12月26日

ブータンの山村集落へ手種(てだね)をたずねて・・・(3)照葉樹林文化とブータンの農耕

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ブータンでは、かつて焼畑が行われていました。
日本の山を見てもわかりますが、かつて焼畑が行われていた山は、独特のパッチワークの森が形成されています。急峻な斜面にぽつぽつと点在する民家。そのまわりに広がる畑。特徴的なブータンの農村の風景です。
首都ティンプーから私が活動していたSamdrup Jongkharまでは、片道3日。どう頑張っても、移動だけで往復1週間近くかかるんです。

急嶺な山に阻まれ、集落間の移動が難しく、低地の亜熱帯から5000m級の寒帯まで多様な植物相が広がるブータンでは、 それだけ多様な生活様式が保全されてきたのでした。

ブータンの傾斜地の農地。かつて焼畑が行われていた。

■ブータンと日本の驚くべき共通点

日本語の起源をたどると、北方民族系のアルタイ語、南方系のマライ・ポリネシア系の言葉、そして、チベット語・ビルマ語の影響を受けているとの説があります。
インド・ブータンに暮らしていて、日本語と驚くほど似ている文法、言葉に気が付きました。

チー、ニィ、スン、シ、ンガ、ドゥル、ディン、ゲ、グ、チュタム、ジュチ、ジュニ、ジュスン・・・

イ、アル、サン、ス、ウ、リウ、チ、パ、ジウ、シー

どこかで聞いたことないですか?
上がブータン国語のゾンカ、下は中国語。

11-14あたりの発音をしてあげると、ブータン人に喜ばれました。
我々の祖先はきっと同じなんだと。

似ているのは言葉だけではありません。
顔つきも、ブータン人と間違えて話しかけられることしょっちゅうだし、
民族衣装のキラ・ゴは、日本の着物とそっくりです。

「そんなことすると、ばちがあたるよ。」

仏教思想の影響か、死生観、不吉なもの、縁起かつぎ、迷信まで似ています。

Navdanyaで一緒に研修を受けたブータン農家たちと


■稲作以前の照葉樹林文化

「日本民族は単一の大和民族で、稲作を中心とする農耕民族である。」

と、教えられてきましたが、実は、北方系の文化、南方系の文化、そして、雲南、チベットあたりを起源とする、「照葉樹林文化」の影響が複雑にからみあってできた複合文化なのではないかという学説があります。


1960年代、「照葉樹林文化」を最初に発表された中尾佐助さんは、ネパール・ブータン・雲南を探検しながら、地理学、植物相、遺伝・育種、作物起源、農法、民俗伝承、食文化など、あらゆるフィールドから農村調査をされています。
学際的研究というのはこのことでしょうか。これほど広い視野で体系的に考えられる人はそうそういないのではないかと思います。


さて、照葉樹林文化はチベット、ネパール、ブータン、雲南、中国南部、日本へと、照葉樹林の広がる温帯地帯に見られる文化。
日本では忘れ去られ、民俗資料館でみるものになってしまっていますが、ブータンでは、当たり前のように普通の暮らしの中にあるもの。

【照葉樹林文化の特徴】
  • インドから伝来したアワ、キビ、モロコシなどの雑穀、豆類
  • 焼畑の文化
  • 絹や漆の加工技術
  • 製茶法
  • 麹を使った醸造
  • 味噌、漬物などの発酵食
  • 野生植物利用
  • コンニャク
  • 木の実、柑橘の利用
木の実を炒ってつぶしてたべる料理




ネパールの漬物を現地語で「シンキ」と聞いたときは、日本のスグキ、スンキを思い浮かべました。

ブータンのどぶろくは、濁り酒と蒸留酒があり、麹を使うところが似ています。

照葉樹林文化の共通点は、モチ米やサトイモ、納豆、 ねばねばした食品を好むことも挙げられています。
日本の杜氏さんに、ブータンのどぶろく製法の話をすると、「モチ米から麹を作っているのではないか?」とのことでした。麹を見せてもらうと、固形だったんですね。中国の紹興酒とかは、モチ米で作るようです。

関連記事:雑穀・アマランサスのどぶろく!



■ネパール、ブータンの高地性集落

熊本を旅していた時、平家落人の村をたずねました。

「落人たちは、見晴らしのよい嶺に居を構えた。あの上に集落があったのよ」
といって、山のてっぺんを指さす。

矢が届かない距離、いつ攻めてきてもすぐに発見でき、避難できる距離。

平家落人の里とよばれる九州、四国の山間部には、共通した文化が残っています。
各地で平家かぶ、雑穀もちが残っていたり、落人文化圏とも呼べるのではないでしょうか。


集落の形成がそれに似てるのがヒマラヤ。
山間の川にそった谷間に集落を作りたがる日本・朝鮮と違って、彼らは山の上の方に住みたがるのです。

図・中尾佐助「栽培植物と農耕の起源」より




中腹に点在するブータンの村
どうも、わたしは、このパターンの集落が好きみたいです。
日本にも、ここまで急ではないけど、なだらかな傾斜のある丘で、日当たりのよいところにずらーっと家が並んでいる集落をみかけると、とても惹きつけられるような郷愁を覚えるのです。

「祖先の記憶は遺伝する」

先祖がうけた恐怖の記憶は子孫の遺伝子に残る、というのは、科学的にも証明されつつあるようですが、故郷のような郷愁(デ・ジャブとでも言いましょうか)は、もしかすると記憶の遺伝子に刻まれているのかもしれません。



■ブータンの農耕と焼畑

民族が各地域に違うので、 作っている作物も全然違うのですが、主に、土地区分が3つに分けられています。

Kamzhing カム・シン 乾いた土地
Chuzhing チュ・シン 湿った土地
Theri ツェリ 焼畑(shifting cultivation) 

つまり、水田、畑作、焼畑。

熊本では、かつて、焼畑が行われていたころ、火をいれる「畑」と、集落の近くにあって、火を入れない「畠」、水をはる「田(タンナカ)」が区別されていました。

前回記事:ホームガーデンに見る植物民俗学(2)五木村の多様な焼畑のカタチと伝統的知識


ブータンでも、Theriは、Kamzhingと区別されているのですね。
 "slash and burn agriculture" 直訳すると、「伐採して燃やす農業」
というと、とっても悪いことのように聞こえます。
ブータンの官公庁の資料では"shifting cultivation(移動栽培)"と表記されています。
1995年、政府は、「環境によくないから」という理由で焼畑を禁止しました。

同時に、粟、黍、シコクビエなど、火入れのあとに種をまいたという雑穀が姿を消していきます。

「焼畑でないと、うまく育たない」

彼らは言います。
「環境に悪いからやめた。そしたら、昔育てていた作物が育たなくなった。」
「収量の高い、近代的な改良品種を導入するように言われている。 」


確実に、ブータンにも改良品種の導入、機械化、効率化がすすんでいます。

ただ、自給的農業を今でも続けるブータンでは、販売用の改良品種、家庭用には、在来種・自家採種と、使い分けをしています。
とうもろこしは4種類、米も4,5種類、それぞれの用途に合わせて使い分けているのです。

たねの貯蔵庫。Bantarにて。

■ブータンの畑を訪ねて・・・

崖にへばりついたような道。その眼下には、とうもろこし畑が広がる。
「みかんの木を見に来るか?」

言われてついていく。
崖をはいつくばるようにしながら進み(いや、半ば、ずり落ちながら)、とうもろこし畑を抜ける。
移動が本当に大変でした。

なぜ、こんな直角に近い傾斜の地に畑を作るんだろう・・・
ブータンは、本当に、平らな土地が乏しいのだ。
増え続ける家族。分家するたびに、土地は狭くなっていく・・・。

この急峻な地に、家畜の牛糞を運ぶのだ。
ワンシーズンに、20キロの牛糞を担ぎ、100回ほど往復することもあるという。
まじめに重労働だ。
 
牛耕にチャレンジさせてもらいました。へっぴり腰すぎると笑われました・・・

薪を運ぶ村人。一面とうもろこしの幼苗が植わってる。

畑に植わってる作物や、混作のパターンを見てると、とっても楽しい。

土地が狭いだけに、所狭しといろんなものが植わっています。
一面のトウモロコシの根元に、インゲン豆、カボチャ、ジャガイモが這っています。天に向かって伸びるトウモロコシと、地を這うカボチャ、ジャガイモは相性がよく、インゲン豆はトウモロコシの軸に巻きついて育ちます。

同じ品種のトウモロコシを植える続けていると病気になるので、近くの農家と種を交換している方もおられました。

純系同士を交配しつづけていると近交弱勢をおこし、弱くなってしまうので、ちがう遺伝子を入れ、雑種強勢してあげるのですが、そんな理論はどうでもよくて、みんな自然とやってるんですよね。
薦池大納言の種苗交換についても書きましたが、とても面白いです。

種苗交換で維持される薦池のタネ:薦池大納言の伝説(1)幻の小豆と鬼の伝説




■栽培品種のいろいろ

【雑穀】

ブータン東南部の村を訪ねると、よく耳にする作物の名前
yangra (foxtailmillet) あわ
chira (little or common millet) きび
kongpu (fingermillet) シコクビエ

ヤングラ(アワ)、チラ(キビ)

コンプ(シコクビエ)
パンケーキにしたり、米どころでは、一緒に炊き込んだりすることもあるのですが、雑穀つくってるところは、どぶろく用に収量の半分ほどは消えてしまうようです。

畑仕事しながら、水のように飲んでますから。
休憩時間に出てきたペットボトルの中身はお酒だったってことは、農村ではよくある話です。

酒の仕込みに消えるから、雑穀やとうもろこしが市場に出回ることはほとんどないんですよね・・・^^


おかげで、農村調査のたびに、各地のいろんなタイプのお酒を飲み歩きしましたよ笑。


とうもろこしのお酒。農家に行けばたいてい作っているので、ペットボトルで売ってくれる。

【そば】

蕎麦といえば、ブータンでは、大きく2種類に分けられます。
Bitter buckwheat (Fagopyrum tataricum)、ダッタンソバ、ニガソバ
Sweet buckwheat(Fagopyrum esculentum)は、日本でも一般的なそば

呼び方に多様性があって、標高の高いところから低いところまで10品種ほど分布している。
そば粉ガレットにしたり、プタとよばれる麺にしたり、小麦粉代わりにお料理に使われたりする。

カラ=ダッタンソバ F.tataricum

ブレモ=蕎麦 F. esculentum


ブータンのそば。日本のとちがって、麺が短い。やはりそばにもとうがらし。

【アマランサス】
アマランサスの品種も5,6種類。
特に東部に多くみられ、「アラ」と呼ばれるどぶろくに使うほか、お米と一緒に炊き込む。

Amaranthus cruentus L.

Amaranthus caudatus L.(pendent inflorence)

ブータンの村の様子をさらっと書いてみました。
次回はもうちょっとマニアックに行きたいと思います。

つづく・・・(たぶん)
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